プールと聞くと、多くの人は水の張られた広い空間を思い浮かべるでしょう。しかし、水を入れただけではプールとは呼べません。プール本体に加え、常に水を清潔な状態に保つための循環ろ過設備をはじめ、様々な設備が必要です。循環ろ過設備はその名の通り、プールの水を吸い上げてろ過・消毒したのち再びプールへ戻すための装置です。この設備があることで、毎回水を入れ替えなくても常に清潔で安全な水質を保つことができるのです。
POOLプールとは
はじめに
設計する際は、プールの用途に合わせて様々な付随設備を組み込みます。付随設備とは、プールの安全性・運用性・維持管理を支えるために設置される補助的な機器・構造物の総称です。
給水・排水・ろ過循環といった水質管理に関わる設備から、スタート台やタラップなど利用者の動線を確保する装置、災害や緊急時に対応するための取水口まで、プールの機能を適切に維持し、安全に利用するために不可欠な設備群で構成されています。
これらの付随設備が適切に配置・運用されることで、プールは安全で快適な環境のもと機能します。
この他、快適な環境を保つ空調や照明、衛生に欠かせない更衣室やシャワールーム、機器を管理する機械室なども付随設備に含まれます。
POOLプールの種類
基本は学校のプール。
用途に合わせて快適性や機能性を追加します。
プールの基本
プールの基本形は、基本的な設備を要し、小中高校などに設置される学校用プールです。学校用のプールは授業・水泳指導・体力づくりを目的としており、安全性・耐久性・維持管理のしやすさが重視されます。水深は浅め(0.8〜1.3m程度)、可動床や手すり付きのタラップなど、初心者にも配慮された構造が多く見られます。授業外で地域に開放されるケースもあります。
快適性やデザイン性を高めたホテルのプール
ホテルのプールでは、ジャグジーなどで快適性を高めたり、水中照明やインフィニティエッジなどのデザイン性が求められます。
機能性を高めた公認プール
公認プールとは、競泳大会での公式記録を認めるための基準に適合したプールです。日本水泳連盟(JAQUA)や国際水泳連盟(AQUA)が定めた規格に沿って、長さ・水深・レーン幅・水温・ターン部分の仕様などが細かく決められており、プール長などにおいても高水準が求められます。大会用計時装置やスタート台など競技用設備もの導入も必須条件となります。
機能性に特化した特殊プール
機能性に特化した特殊プールもあります。たとえば、水中救助・潜水訓練・水難事故対応など、実際の現場を想定した訓練を行うための潜水訓練プールです。一般的な泳法やレジャーとは目的が異なり、救助技術や救命活動、安全確保の訓練に特化して設計されています。
特殊プールには、潜水訓練プールの他に流水プールやリハビリ用プール、人工的に波を発生させる造波装置付きプールなど様々な種類があります。
POOL材質と仕上げ
プールの材質は主に3種類。
近年はステンレスプールが主流です。
プール槽は材質によって耐久性・安全性・メンテナンス性が変わります。コンクリートはコストが低く加工しやすいなど施工性に優れ、現在最も多く採用されています。その一方、重量面や防水面での課題から高層階では使いにくいなどの制約もあります。ステンレスの受注に対応できる企業は日本国内で限られていますが、耐水性・耐腐食性が高く、その物性から耐震性にも優れています。また、コンクリートに比べて軽量なため、屋上や高層階での採用も可能です。他にはFRP(樹脂)があり、その構造は家庭用の浴槽をそのまま大型化したイメージです。近年では建物の長寿命化が求められる時代であることや学校やホテルなどではプールを高層階へ設置する場合も増えており、ステンレスが主流となりつつあります。
ステンレス鋼について
強度
ステンレス材が持つ優れた物性を活かし、構造を全溶接構造とすることで高い耐久性・耐震性・防水性を実現したプールとなります。学校・ホテル・フィットネス・競技プールといった多くの施設で採用されており、特に東京都内の学校の約7割がステンレスプールを採用しています。
耐震性
ステンレス鋼は伸びや引っ張り強度の高い構造性を持っているため、耐震性を考慮したプール槽の素材としては非常に適しています。過去の阪神淡路大震災や東日本大震災の際もステンレスプールが破断したという事例はなく、地震に強いことが証明されています。
耐用年数・耐食性
ステンレス鋼に含まれる金属元素クロムが酸素と結合すると鋼の表面に保護被膜(不動態皮膜)を生成します。この不動態皮膜がサビの進行を防ぎます。また膜自体が大変強靭であり、一度破壊されても周囲の酸素と結合して自動再生する能力をもっています。
仕上げ
プール表面の仕上げは、高級感を演出すると同時に、耐久性やメンテナンス性にも大きく影響を与えます。
プール仕上げ比較表
POOL可動床
可動床を導入すると、
目的に合わせて水位を変更できます。
可動床とは、床面を移動させプールの水深を調整する設備です。水深を調整することで競技用からレジャー用まで使い分けたり、オフシーズンには床をフラットにしてプールフロアを全く別の目的に利用したりすることもできます。
また、床面を移動させる以外にも、壁を移動しスペースを調整したり、仕切りやスロープを設置したりするなどプールを部分的に利用することも可能です。このように様々な活用方法があります。
プール可動床のメリット
水位調整ができる
利用者の体格差に対応することができます。 小学校の低学年・高学年の体格差や一般開放をする場合の利用者に合った水深の設定が可能になります。
事故防止
①シーズン中の溺れ事故・・・・体格や技量に合わない水深による溺れ事故を防止できます。 ②シーズンオフの溺れ事故・・・床を水面まで移動させることでプールサイドからの転落を防止できます。 ③排水口に引き込まれる事故・・可動床が床面を覆うので排水口に引き込まれる事故を防止できます。
床上利用
床上利用の仕様にした場合、シーズンオフ時に床上を多目的スペースとして利用することができます。 軽運動や集会等で利用。
可動床の種類
チェーンドライブ方式
浮力を利用し、水に浮いた状態の床をプール壁面に設置された駆動装置で昇降させる。
シリンダー方式
水圧シリンダーで床を昇降させる
FLOW設計(図面解説)
通常、プールの設計は
設計士と業者の綿密な連携のもと進められます。
ここからは、ステンレスプール施工プロジェクトを例に、設計から完成までの全工程を詳しく解説します。具体的な設計図面や施工計画書からプール建設の実務をご紹介します。
弊社で作成した参考図面を元に、基本的なプール設計を紹介します。施工計画では、工事範囲や材料、品質管理や安全管理の方針を決めます。通常、弊社のようなプール業者が設計士に図面協力の形で連携します。
P1 - 特記仕様書・平面図
平面図
このプールは25m×17m・8レーン・水深1.3~1.4mのプールで、競泳用としては一般的な仕様です。では平面図を作成するにあたり、このプールを安全、かつ機能的に運用するために検討している項目をいくつかご紹介します。
ex.
レーンの幅:部活動での利用も考え、プール公認規則集に準じて2m幅に設定。
レーン両端の余幅:競技性を担保するため余幅を設けることで両端のレーンにもコースレーンを配置できる。
水深設定:スタート台を安全に使用するため、日本水泳連盟が定める1.35m以上の水深を確保。
水深勾配:排水効率を高めるために、排水桝に向かって谷勾配を設定。
特記仕様書|概要
このプールはステンレス製で、すべてのつなぎ目を溶接して作られた、丈夫で水漏れの心配の少ない構造になっています。溶接した部分は、電気化学反応で溶接焼けを落とす「電解研磨」により見た目も美しくサビにも強く仕上げられています。一部には塗装も施されています。
P1.本体仕様書 概要での表記
特記仕様書|材料
採用しているステンレス材の詳細を明記しています。ステンレス材の最大のメリットは軽量で取り扱いや施工が容易ということ。ステンレスプールでは多くの場合、腐食しにくいステンレス鋼「SUS304」を採用しています。また、プール槽の裏面には複数の補強板を使用し、水圧に耐えられる強度を確保しています。
P1.本体仕様書 概要での表記
P2 - 断面図
断面図
基本的なプールの断面図です。躯体の構造をはじめ、基礎とプールの取り合い(接合部分)など、断面からステンレスプールの構造が確認できます。
P3 - 部品詳細図
プール工事に含まれる各部品の詳細図です。このプールは、水をきれいに保つための吸込み口や給水ノズル、オーバーフロー用の排水設備など、水の循環と管理に関わる装置を全て備えています。競泳プールとしても使えるように、スタート台やレーンロープ、ロープを固定するフックも備えられており、プールへの出入に使用する入水タラップ、あふれた水をうけるオーバーフロー側溝には防滑仕様のグレーチング(蓋)など、利用者の安全や使いやすさを高める設備も揃っています。
❶スタート台
競泳スタート時に選手が構える台。脱着式にすることでプールの使用目的に合わせて、取り外しが可能です。
❷給水ボックス
プールに新しい水(上水)を吸水するための配管部品。水張りの際の初期給水や、水位を調整する際に使用されます。上水の逆流を防ぐため、配管口は水面から立ち上げた形状となっています(吐水口空間の確保)。また、安全性に考慮し、プールサイドの突起物には塗装を施し視認性を高めています。
❸ろ過給水兼排水桝
プールの排水と、ろ過の吸込み(ろ過機への水の往路)を担う桝形状の金物(パーツ)。吸込みによる事故を防ぐため、パンチング蓋と配管口の丸棒による二重蓋構造となっています。また桝形状とすることで、水と共に流入する余分な沈殿物を受け止める泥溜の機能を果たし、配管が詰まりにくい構造となっています。
❹オーバーフローノズル
プールからオーバーフロー側溝へ溢れた水を回収する配管。接続先は一般的に排水に接続されますが、ろ過のシステムによっては循環水として利用されます。
❺ろ過給水ノズル
ろ過装置で浄化された水をプールに戻すための吐出口。一般的にプール壁面全体に設置され、水流を均一に供給することで、水質のムラや停滞を防ぎます。また表面には流量調整目皿があり、目皿を回すことで吐出量の調整が可能となっています。
❻レーンロープフック
競泳用プールでレーンロープ(コースロープ)を固定するための金具。プールのウォータライン(水面)より低く設置します。
❼入水タラップ
利用者が安全にプールへ出入りするための階段状のはしご。設置位置や数量については導線計画を元に計画されます。また競泳プールや学校プールでは安全性や利便性を考慮して、壁面に内蔵することでプール内部への突起物にならないような仕様としている。ホテルなど意匠性が重視されるプールの場合は、パイプ形状などのデザイン性の高い仕様が採用されています。
❽グレーチング(排水溝蓋)
プール天端の縁に沿って設置されるオーバーフロー側溝を覆う蓋。樹脂製やステンレス製などがあります。水はけが良いようにスリット形状で、安全性を考慮し表面は防滑仕様となっています。
❾レーンロープ
競泳のレーンを区切る浮力のあるロープ状設備。連続した円盤(フロート)が波を吸収し、他レーンへの水流干渉を防ぎます。フロートの配色を変えることでターン地点や中央ラインを識別できるようにすることも可能です。
P1.本体仕様書 概要での表記
設置箇所
P4 - アンカープラン図
P1.平面図での設置箇所
埋込アンカープレート詳細図
ステンレスプールが動かないよう、事前にプールサイドスラブや基礎コンクリートへアンカープレートを埋め込み、溶接固定します。この図面ではアンカープレートの配置や設置レベルが記載されていります。
P5 - 塗装図
P1.本体仕様書 概要での表記
「特記仕様書」に見るようにこのプールの塗装仕様は、ステンレス製全溶接構造の耐久性をさらに高めるため、下地処理から仕上げまで多層構造で設計されています。まずケレン・脱脂でステンレス表面を整え、密着性を高めた上で、エポキシ樹脂塗料による下塗り・中塗りで防水性・防錆性を確保。仕上げにはアクリルウレタン塗料を2回塗布し、耐候性や清掃性を高め、光沢を加えています。
さらに、天端やタラップ踏面、スタート位置など滑りやすい場所には珪砂を使ったノンスリップ塗装を施し、安全性に配慮。コースライン・5mライン・センターラインなどは塗料用標準色(日本塗料工業会)でマーキングされ、競泳に対応した高い視認性を確保しています。また外面の溶接部にも変性エポキシ塗料を塗布し、湿気や腐食への耐性を高めています。
FLOW施工
搬入から溶接、塗装まで
厳しい社内基準に沿って進められます。
ステンレス製プールの施工は、工場でパーツ製造 → 現場で組立 → 溶接 → 塗装 という流れで進みます。現場で実際にどのような作業が行われるのかを紹介します。
ステンレスパーツ製造
工場でステンレスパーツを製造します。
パーツ製造(壁部材に付属部品を取付け)
パーツ製造(側板のツナギ部溶接)
ステンレスプール缶体工事
ステンレスプール缶体工事のフローチャート
1.車輌積荷 荷姿 工場より出荷し、現地へトラックにて輸送します。 搬入状況及び、道路規制などにより、車輌を選定します。2.側板配列プール内に重ね置きした側板ブロックはクレーンやフォークリフトなどの揚重設備を使用し 所定位置へ配列します。
1.車輌積荷 荷姿
2.側板配列
3.側板仮溶接側板ブロックを配列後、隣合わせになるブロックを仮溶接(点付け) します。4.レベル調整設計高さを基準にし、アンカープレート上にライナー材を 挿入し天端部のレベル調整を行います。
3.側板仮溶接
4.レベル調整設計
5.ライナー溶接側板本体とライナー及びライナーとアンカープレートを溶接 固定します。6.バットレス取付側板の倒れ(傾き)、寸法等を確認しながら側板補強材と アンカープレートをバットレス材で溶接固定します。
5.ライナー溶接
6.バットレス取付
7.側板本溶接(3)で仮溶接した箇所を本溶接(全溶接)します。8.底板配列底板配置図に基づき順次配列を行います。 底板は、25mmずつ重ねて配列していきます。
7.側板本溶接
8.底板配列
9.底板溶接底板配列完了後、重ね部の溶接(全溶接)を行います。10.プール缶体工事完了
9.底板溶接
10.プール缶体工事完了
プール塗装工事
プール塗装工事のフローチャート
1.目荒らしグラインダーを使用して素地を目荒らしし、塗料が密着しやすい状態にします。2.脱脂ステンレス上に付いた埃・油脂分を取り除きます。
1.目荒らし
2.脱脂
3.プライマー塗りエポキシ樹脂塗料を下塗りします。(写真は白)4.中塗り下塗りの上にさらにエポキシ樹脂塗料を塗り、塗膜を厚くし、耐久性を高めます。(写真は白色)
3.プライマー塗り
4.中塗り
5.上塗り1回目 アクリルウレタン樹脂塗料を使用し、色・光沢を加え、耐候性を高めます。(写真は青色)6.上塗り2回目 乾燥させたのち、塗り重ねます。(写真は青色)
5.上塗り1回目
6.上塗り2回目
7.ライン塗装アクリルウレタン樹脂塗料を使用し、ラインを塗り加えます。(写真は青)
7.ライン塗装
8.塗装完了
社内検査
ステンレスプール工事の最後には品質管理の為、社内検査を実施します。 様々な検査内容がありますが特に重視されるのは溶接部の非破壊検査です。この検査は溶接の品質を確認するもので、ステンレスプールの防水性能を確保するうえで非常に需要な検査となります。
P1.本体仕様書 概要での表記
ステンレスプール缶体工事
塗装工事
溶接検査(真空試験)底板溶接部(全周)を真空ポンプと真空箱を使用して 溶接部の貫通欠陥を検査します。
溶接検査(浸透探傷検査)側板及び天端溶接部(漏水に関する溶接部)を浸透液と現像液を使用して検査します。
寸法検査 長さ方向、幅方向、水深や水平レベルが社内基準値に適っているか検査します。
溶接検査(真空試験)
溶接検査(浸透深傷検査)
寸法検査
膜厚検査
全ての検査が完了すると完成、引き渡しになります。
お問い合わせ
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